原作/許斐剛
監督/川口敬一郎
シリーズ構成・脚本/広田光毅
『新テニスの王子様 氷帝vs立海 Game of Future』の始まりとは
川口『テニスの王子様 BEST GAMES!!』シリーズを3作やらせていただいた後、4作目があるかもという話は伺っていました。それが原作のあるエピソードになるのか、新作になるのか…という感じでしたが、その後で今回の内容に決まりましたね。
許斐氷帝と立海はどちらも人気校で、対戦させたらファンのみんなが喜ぶだろうなと。ある意味キラーコンテンツだったので、それを実現させるチャンスではあったというか、お話をいただいた時は「遂に来たか」という思いでしたね。
川口この件で許斐先生と最初にお話した時に「これはファンの人たちが喜びますね!」と先生が一番喜んでいたのが印象に残っています(笑)。
広田むしろ、そこで気づいたくらいでしたね。今までガチでやっていなかった試合なんだと。
許斐アニメのオリジナルとしてやれそうな対戦ではあったけど、私の方もあえて止めていた部分はあったのかなと。実際、原作で描いてみたいと思うエピソードだし、それがこうしてアニメになって、私も携わらせていただいたのは嬉しかったですね。
広田最初は試合のオーダーを決めるところから、まず先生にご相談しよう、という感じでしたね。
許斐スタッフの皆さんと会ってお話をして、その時はまだ双方ともオーダーの案が決まっていなかったんですよ。後日、お互いに案をまとめて持ち寄ったら、もう完全に真逆くらい違っていて(笑)。
川口そこからアイディアのキャッチボールをしながら作っていきましたね。アニメオリジナルのエピソードとなると、大抵は原作の合間を描いたものが多いんですけど、今回は『新テニスの王子様』で描かれているワールドカップの、さらに後のエピソードとして設定されているんです。
許斐だから、最初はどう説明しようかなと思いました。アニメの制作に関してはいつも信頼してお任せしているんですけど、今回は私が原作者として完全監修するという依頼だったので、ここはもう原作寄りで作りたいなと。ワールドカップでは試合に出た者も出なかった者もいるけど、全員がその試合を観てはいるので、そこで彼らがどう成長したのかを、全部この作品に反映させたいと思ったんです。そういう意味では『氷帝vs立海』は本当に原作で描きたいエピソードだったので、その思いをわかっていただきたくて、かなり長い文章にして皆さんに説明し、オーダーの意図を理解していただいたという感じでした。
広田原作でまさに今展開されているワールドカップ後に彼らがどうなっているのか、アニメスタッフもまだわかっていない段階でしたからね。我々はそれまでのアニメの展開だけを踏まえてオーダーを考えていったけど、先生はもっと先を見据えて考えていたので、おそらくそこでオーダーの違いが表れたのかなと思います。我々としてはまず、その時点の氷帝と立海のメンバーがどうなっているのかを知りたかったので、先生に色々と聞きましたね。簡単に言うと「新技ありますか?」ってことですけど(笑)。そこはワールドカップでの勝敗がわからないと掴みにくいところでしたけど、今回はその辺りについて先生からきちんと返していただけたので、原作を半年分くらい先取りできる美味しい思いをしました。
許斐「今後の原作はこうなりますよ」と先にネームを渡して、新技についても皆さんに共有しました。
川口先生にお会いしたら、まだネーム段階の原稿を見せてくださって、こんなことは滅多にないなと。しかも先生が自らネームを解説しながら読んでくださるという。
広田先生がセリフを言いながら読んでくださるので、監督と「おお…」と感動していました。あれは至福の時間でしたね(笑)。
川口なかなか経験できないことですよ。この話、ずっと誰かに言いたいと思っていたんです(笑)。
広田先生がどういう思いで描かれているのかが、すごく伝わってきました。
許斐こちらもわかってもらいたくて必死でしたからね。これはもう熱弁しに行かなきゃと思っていました。
川口先生が本当に楽しそうにキャラクターのことを考えているのも、よくわかりました。
広田ちょうど単行本の31巻に収録されている辺りでしたね。あれを全部「アフレコ:許斐剛」で聞かせていただいたんです。
川口ページをめくる時に、ちょっと溜めたりもしていましたよね。
許斐あの日の帰り、ちょっと熱弁し過ぎたかなと思ったんですけど、あれくらいやらないと伝わらないかなと思って。
広田逆にプレッシャーもかかりました。ここまでやってもらったからには、下手なことはできないなと思いましたよ。
氷帝vs立海のポイントとなるべきところ
川口3年生は卒業が近づいていて、2年生は未来の部を背負っていこうとしている、いわゆる“世代交代”ですね。それはワールドカップ後だから描けることで、ドラマとしては正直、作りやすいなと思いました。
許斐合間の話とか、どこかであったかもしれない練習試合で作ることもできたんですけど、それだと今までの作品と変わらなくなってしまう。『テニスの王子様』が先に進んでいく“進化”をマストアイテムとして考えて、それをみんなに体験してほしい気持ちもあったので、合間ではなく「先の話」にしたいなと思ったんです。
広田今までのアニメは世代交代に触れない流れでやってきたところもあって、それは決して先生から言われたわけではなく、なんとなくアンタッチャブルな雰囲気があったんです。OVAで一度だけ、青学で海堂と桃城が次の世代を引き継いでいく…っていう話を作ったことがありましたけど、他校では一切触れてこなかったところを今回は先生からご意見をいただいて、あえて「先」へ進むという。世代交代を初めて意識して描くのはプレッシャーもありましたが、今回の大きなポイントかなと思います。
許斐ファンの方も意識しているところですからね。3年生の卒業を考えると寂しさも感じますけど、単行本の27巻では次世代の次期部長たちのエピソードを描かせてもらったので、それに対するファンの反応もチェックしつつ、タイミング的に一度しっかり描けたらいいなと思っていました。
注目の新キャラクター・玉川よしおは立海の次期部長!
許斐2年生を描くにあたり、私は最初から絶対に玉川よしおを出したかったんですけど、その案をスタッフさんが一旦持ち帰られて、最初の脚本が上がってきたら外されていたんですよ。やっぱり使いづらかったですと。「いやいや違うんです、新しいものを作るためには、新しいキャラクターが必要なんです」と。先へ進むためには、これまでのキャラクターだけで回すのではなく、次世代に行ってほしいんだと。その象徴として、彼を出したいと思ったんです。そう説明して、納得の上で形にしてもらって、素敵な声優さんが付いたので、もう感無量です(笑)。
川口玉川は色々あっていいキャラクターになりましたね。あまり詳しく話すとネタバレになっちゃいますけど(笑)。
広田結果的に、とてもいい形で機能してくれるキャラクターになりました。ただ、脚本を書いた時点の玉川の情報でわかっていたことは、原作に登場した時の照れた表情と、ロブに定評があること、「よーし1年集まれ! 見てやるぞ!」のセリフだけ。その情報から玉川よしおを描かねばならなくて、どうしようかと思いました。だから、先生にまず玉川のキャラクター絵をお願いしましたね。絵があるとイメージしやすいし、性格的な部分もラフ設定などでいただけるといいなと。もうひとつは「ロブに定評がある」という設定で、どこまで活躍できるのか、ということですね。そこで先生のお知恵をお借りしました。
許斐最初に27巻で次期部長エピソードを描いた時、どの学校も「次はこの部長」と大体すぐに浮かんできたんですけど、レギュラーの2年生が赤也しかいない立海は悩みました。赤也は部長の器ではないな、と。どうしようか考えていたら、赤也が「俺が部長じゃないんスか!?」って言う姿が森久保(祥太郎)さんの声で浮かんじゃって(笑)。それで次期部長に「誰っスか、コイツ!?」ってツッコんでいるのが面白いかなと。それで玉川よしおが生まれました。「ロブに定評がある」というのも「なんだそれ」ってツッコまれそうな感じだし。赤也は、実力はエース級だけど、彼はチームプレイを意識せず自分のことだけを考えて戦う方が向いている。その強みが部長になったら抑えられてしまうかなと。その辺りは今後原作にも出てきます。ちょうど今描いている所なので、この氷帝vs立海が世に出る頃には形になっていると思いますよ。最初はファンから「なんで赤也が部長じゃないんだ」という声もあったんですけど、ちゃんと納得させられるエピソードは考えています。
広田玉川というキャラクターが活きる展開にもなりましたね。だから、こうなることを考えていた先生は天才かもと思いました。