原作/許斐剛
監督/川口敬一郎
シリーズ構成・脚本/広田光毅
3人それぞれにとっての【アニメ『テニスの王子様』】とは?
許斐ある意味「夢」です。漫画家たるものアニメ化したいという思いはあり、実際アニメになったことで、キャラクターに声が付いてカラーになって動き出し、音楽が付くことで世界も立体的に広がっていくわけです。だからもう夢のような世界だなと。それを20年もやっていただいているのは奇跡のようなことだと思っています。アニメに刺激を受けることは常にあります。『BEST GAMES!!』シリーズも何度もこっそりと劇場へ観に行きました。仕事しながらアニメを観ている時も、キャラクターが一生懸命打っている時に流れる音楽を聴くと必ず泣けるんです。
「なんていい話なんだ」って(笑)。でも漫画で同じシーンを読んでも泣けないんですよ。やっぱり声や音楽が付いて動いていると不思議と泣ける。そこがアニメのすごいところだなと思います。 あと、漫画を描いている時に、これがアニメになったらこういう風に声を当ててもらえるだろうなって、声優さんたちの声で再生しながら描いている時もありますね。そのくらい、アニメは自分にとって切り離せないものです。スタッフも長年やっていただいている方が多いので、キャラクターが変なことになったりしないと絶対的な信頼を置いています。
広田僕はOVAの『全国大会編』から参加させていただいています。今回の『氷帝vs立海』のお話を最初にいただいた時は、やり甲斐のある美味しい仕事だと思ったんですけど、いざやり始めてみるとリョーマ君から「テニプリなめんなよ」と言われているような気がしました。約15年やらせていただいた中で、一番苦しい仕事だったかもしれません。本当にパソコン前で「氷の世界」と「五感を奪う」のを同時にやられているように何度も凍りついてしまって(笑)1行も書けなくなるくらい、いろんなものが押し寄せてきたんですよ。
許斐それは仕方ないかもしれません。私が上がってくる脚本に修正の赤を入れたんですけど、セリフとか細かい動きまで書いて渡してしまったので、たぶん悩まれているだろうなと。
広田現場でプロデューサーさんや監督からもいろんなご意見をいただいていたので、正直逃げ出しそうになりました。先生からの自筆の赤は、もちろん「ここは違います」「こうなります」という指摘もあるんですけど、何箇所かセリフが丸で囲まれて「ここは素敵です」とか「素晴らしい」とかも書かれていたので、それに救われました(笑)。許斐先生に「素晴らしい」と言ってもらえるセリフを俺は書けているんだと、本当に泣きそうになったんですよ。
許斐それは本当に素晴らしかったからですよ。
広田そうやって先生に背中を押していただけたから、今回完走できたんだと思います。長年やらせてもらってきた作品だけど、まだ自分はこのキャラクターを掴みきれていなかったんじゃないかと悩みが大きくなったんですよね。だからもう一度、原点に帰りなさいと言われているような気がして。でもきっと、許斐先生も原作で同じような気持ちを繰り返しながら、ここまで物語を紡いでこられたのかなと。だから、ほめていただいた時は体がほっこりするような気持ちなりました。ありがとうございます。
川口僕は『BEST GAMES!!』シリーズからやらせていただいていますが、最初はあっさりと「やりますよ」と引き受けたんですよね。それが今では、個人的にも『テニスの王子様』にハマってしまいました。一番嬉しかったのは、イベント上映に来てくださったファンの人たちが、ものすごく温かかったことですね。本当にアニメの新作を楽しみにしていて、ツイッターなどを見ると、こちらが表現したいキャラクターの魅力もちゃんと拾ってくれていて有り難いなと思いました。
許斐『BEST GAMES!!』シリーズは本当に良かったですから。
川口少し前には、個人的に跡部カフェにも行ってきたんです(笑)。そこで原作やアニメだけでなく、いろんな広がり方をしているんだなと実感したし、20年も続いているアニメに自分が携われたことが嬉しいなと素直に思いました。だから、まだまだ携わっていきたいですね。プレッシャーは当然ありますけど、それ以上にファンの皆さんが喜んで観てくださるから、やり甲斐があるなと思っています。
広田僕は劇場版『テニスの王子様 英国式庭球城決戦!』をやった時のことが印象に残っています。打ち合わせで初めて許斐先生にお会いして、すっごく緊張したんですよ。その時に先生が笑いながら「敵のチームを跡部が作ったことにしませんか?」って言い出して、この人すごいひっくり返してきたぞって(笑)。でも、そういうアイディアが面白かったです。その案では劇場版の主役が跡部になってしまうからと、最終的には違う方向でOKをいただきましたけど、初めて先生とコミュニケーションをとらせていただいたことが思い出深いですね。先生はよっぽどのことがない限り、私たちからの提案などを受け入れてくださるので、『テニスの王子様』という作品には、先生のお人柄というか器の大きさが出ているといつも思っているんですが、それを初めて実感したのが劇場版でした。
原作とアニメの絶妙な距離感
許斐基本的には、なるべくアニメには携わらないようにしているんです。アニメにはアニメのいいところがありますし、アニメにしかない膨らませ方で、たとえば比嘉中をちょっとコミカルにしてくださったりとか…。そういうところでまた人気に火が点いたり、新たな愛され方をしたりするので、それは嬉しいことですよね。自分だけで作ってきたのではなく“テニプリ・ファミリー”で作っている感じがすごくするんです。だから原作者としては、できるだけ雁字搦めにしたくはなく、自由にやっていただいた方が作っている側も楽しめるかなと思っています。今回の作品に関しては、私が監修を務めることで「許斐漫画イズム」を出しつつ、アニメの良さを活かしたいなと思いました。だから、新たな必殺技も今後の原作に出そうと思っていたものを提供させていただいているので、どんな風にできあがるのか楽しみにしていますね。
川口まだ制作途中なので詳しくは言えないところもありますが、期待してただいていいと思います。試合のシーンも頑張っております。あと、今回は劇伴(BGM)をリニューアルして、すべてが新曲になっています。新しい『テニプリ』のスタンダードとして、いい曲が揃っているので、そこも期待していただきたいなと思います。
許斐今回は原作でまだ描いていない先のことを文章でお伝えして、それがアニメになるというのが新しいなと思いました。私が伝えたいものを漫画にしなくても、きちんと表現して世に出すことができる。今後はこのやり方がいいなと思うくらい(笑)。でも一方で、先にネタを出されちゃったことが悔しかったりする気持ちも実はあります。
川口正直、こういう原作にない題材をやれるというのは光栄ですね。『テニスの王子様』の監督は歴代で3人いますけど、もしかしたら僕が一番嬉しい作品をやらせていただいたかもしれません。
許斐ある意味、アニメと戦っているところもあるんですよね。アニメが評価されるのはすごく嬉しいけど「こっちも負けられないぞ。原作も頑張らなきゃ」っていう気持ちもあるので、そうやってお互いに切磋琢磨して、いい作品をファンの前に出せることが一番素晴らしいんじゃないかなと思います。
広田今回はある意味、原作と地続きの話なので、アニメならではの遊び的な部分は徹底的に削ぎ落としてお話作りをしています。でも、監督も仰った中学生らしい彼らの印象的なシーンも無視してはいけないので、その中で脚本としての贅肉をどれほど削ぎ落とすのか。それが作業としての最終段階でしたね。最初の脚本は前篇だけで映画1本分くらいの尺になりましたが、そこから削ぎ落としていき、熱量だけは長編映画と同じくらい詰めて形にしているので、僕も期待していただきたいなと思っています。
『新テニスの王子様 氷帝vs立海 Game of Future』の見どころ
川口時間軸が原作で今描かれているワールドカップの後なので、次世代に向けてエールを送る3年生たちと、それを受けとめる2年生たちがテーマになっています。
許斐そのテーマに合わせて、試合のオーダーや対戦カードはものすごく考えました。今回の作品では、両校メンバーの『テニスの王子様』『新テニスの王子様』を経たその先の新たな成長を感じられるので、そこを観ていただきたいですね。集大成になるような作品じゃないかなと思います。
広田タイトルに「Future」って入ってきたのは初ですよね。「未来」っていう言葉が、今回は一番大きな意味を持っているんじゃないかなと思います。
許斐なぜこのタイトルにしたかというと、原作は『Genius』、新テニは『Golden Age』っていうタイトルから始まっているので、同じ「G」から始めたいなというのがありました。あと『Game of Future』の「Future」は、TVアニメの最初のオープニング曲タイトルなんですよ。その意味では始まりの言葉であり、未来の世代という意味も含めると、このタイトルしかないなと。 TVアニメ開始から20年も経ちますが、今回はこれだけのキャラクターが登場して、主人公の学校の話じゃないんですよ?(笑)それでも氷帝と立海のキャラクターそれぞれにファンがいてくださって、こうやって作品にしていただけるというのは有り難いことだなと思いますね。
川口自分は『テニプリ』に携わってきた時間がまだ短い方ですけど、アニメを頭から振り返って原作も読み返して吸収し、今回の『Game of Future』を自分なりの集大成として挑んでいます。この作品を通して『テニプリ』の知識をさらに得て成長できたかなと思うので、私の監督としての成長も観ていただけたら嬉しいですね。